精緻な荒巻(久保かすり織物)
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特徴
- 得意なこと: 柄表現を決定づける高精度な整経工程
- 得意なこと: 張力と配列の均一化による安定した柄再現
- 得意なこと: 経絣特有の「整った美しさ」を支える技術
- 得意なこと: 時間をかけた手作業による精度追求
- 課題: 非常に手間と時間がかかる工程
- 課題: わずかなズレが全体に影響する繊細さ
技術の背景にあるわたしたちの取り組み
- 柄の精度を決定づける基盤工程
- 経糸の配置と順序を整えることで、最終的な絣柄の完成度を左右する重要な工程。
- 張力コントロールによる安定性
- 糸の張りを均一に保つことで、織り上がりのズレや歪みを最小限に抑える。
- 整然とした経絣表現の実現
- 経糸主体の柄を正確に構成し、シャープで秩序あるデザインを生み出す。
- 手作業による高精度な調整
- 一本一本の糸を丁寧に整えることで、細部までブレのない仕上がりを実現。
- 後工程の品質を左右する要
- 荒巻の精度が、その後の織りの安定性と品質に直結する。
解説
久留米絣の柄の作り方の基本は、糸の括りだ。しかしそこからさらに、柄に変化や動きをもたらすことができる余白が各工程には秘められている。久保かすり織物は、久留米絣の中でも特に経糸だけに括りをほどこす「経絣」に特化して、表現の可能性を広げるチャレンジをしている織元だ。

久保かすり織物の工房にいってまず気がつくのは「荒巻」と呼ばれる工程におかれるウェイトの重さだ。久留米絣の基準である反物幅(約36cm)の生地を織るのに必要な経糸の本数は、800〜1200本。荒巻の工程は、この必要本数分の経糸を一本一本、筬(おさ)に通して並べていき、織機に取り付けるビームに巻き取っていく作業のことをいう。

経糸に絣糸(括って模様を出した糸)を使う経絣の場合、糸を並べる作業はとても複雑だ。別々に括られた糸束を必要本数ずつに分けて、無地の糸とも組み合わせながら順番に並べていかなければならない。しかし緯絣と違って、この段階でどんな模様の生地になるのか可視化されるので、美しく面白い工程でもある。
久保かすり織物では、通常の織元では1台しかない荒巻機が3台も並ぶ。そこでは他ではあまり見ないような細かく複雑な経絣の柄や、「ぐの間」と呼ばれる、荒巻工程で経糸を上下に引っ張って柄をずらすことで模様を生み出す技法が、頻繁に行われている。ぐの間は特に、久留米絣を代表する図柄でもある「矢絣」を作る際に昔から使われている技法で、久保かすり織物では矢絣をさらに複雑にしたような、いわば「ぐの間発展系」の柄も数多く制作している。

こうしたさまざまな創意工夫を盛り込んだ経絣を生み出すため、久保かすり織物では通常は1反(約12m)を1日かけて巻くところを、2〜3日かけてとにかく丁寧に行っている。また、久保かすり織物では、荒巻だけではなく織りの工程でも、織機を調整して経糸を上下にずらして軌道を変えることで柄に変化をつけることもあるという。こうした経糸へのこだわりが、久留米絣業界でも「経絣の久保さん」と言われるほど、柄の細かさや美しさに定評がある所以なのだ。

こうしたマニアックなこだわりの追求は、一級建築士の資格も持つ3代目の久保竜二さんのバックグランドにも背景があるかもしれない。モコモコとした綿モール糸を緯糸につかった久留米絣の生地開発や、筑後染織組合で注染した経糸を使い、ランダムなグラデーション模様が斬新な絣デニム生地「Y式デニム」の開発など、新たな挑戦にも積極的に取り組んでいる。

曲線や絵のような柄も表現できる緯絣とは違い、経絣はどうしても括りがパターン化されやすく制約も多い。久保さんは、そんな難解な経糸の道をあえて極め、その仕組みが持つ可能性を味わい尽くしながら、未知なる表現を生み出し続けているのだ。
見えない工程に宿る、絣の精度
私たちは、完成した布の美しさだけでなく、その土台となる工程の精度を何より大切にしています。荒巻という目立たない工程にこそ、柄の正確さや生地の質を左右する本質があると考えています。一本一本の糸と向き合い、張力や配置を丁寧に整えることで、揺らぎの少ない美しい絣を生み出しています。表には現れにくい工程だからこそ、妥協せずに向き合い続けることで、久留米絣の品質を支え、次の世代へとつないでいきます。