ファッションによる復興(森山絣工房・藍森山)

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  • 文人絣の締め機(しめばた)を絞る。大島紬などにも承継された伝統技法。

特徴

  • 得意なこと: ファッションを通じた伝統的価値の再定義
  • 得意なこと: ブランド・コラボレーションによる市場拡張
  • 得意なこと: 再建資金・関係性の獲得手段としての活用
  • 得意なこと: 体験・発信と連動した新しい工房モデル
  • 課題: 伝統技術とのバランスの難しさ

技術の背景にあるわたしたちの取り組み

ファッションによる価値の再編集
伝統工芸を現代の衣服として再構築し、使われる文化としての価値を再定義。
市場との接続による持続可能性の確保
商品として流通させることで、継続的な収益と工房の運営基盤を確立。
ブランド化による認知拡大
独自の世界観を打ち出すことで、国内外の新たな顧客層へリーチ。
コラボレーションによる表現拡張
デザイナーやブランドとの協働により、従来にないデザインや用途を開拓。
発信と体験の統合
商品だけでなく、工房体験やストーリー発信を通じて、ファンや支持者を育てる。

解説

久留米絣の織元、特に藍染をする織元にとっての生命線は「水」だ。染めるにも、洗うにも、大量の水を必要とする上に、金属鉄分やカルシウムなどのミネラル成分を多く含む硬水だと、うまく発色しないこともあるので、ほとんどの織元では今でも井戸水や川の水など、ローカルな「軟水」を使っている。

1858年(安政5年)創業の森山絣工房は、現存する久留米絣の織元では最古の歴史を持つ織元だ。多くの織元が集中して残っている広川町にあり、名前の通り「広川」という川を水源にして、6代にわたり伝統的な天然灰汁発酵建ての藍染めを続けてきた。手括り・手織りが要件となる国指定重要無形文化財の久留米絣も作り続けており、中でも蚊絣や十字絣など繊細で細やかな技術が必要な小柄を得意としてきた。

2023年6月、森山絣工房は記録的な大雨となった「九州北部豪雨」で甚大な被害を被った。50以上並んでいた藍甕が染料ともどもすべて泥水に浸かり、場所によっては水は床上90cmに達した。糸を巻く機械なども水に浸かり、建物も半壊状態になった箇所もあった。まさに存続の危機だった。

そんな状況の中で立ち上がったのは、6代目を2人で継いだ、森山浩一さんと森山典信さんの若き兄弟だ。浩一さんはファッションやイベント企画、典信さんは食品・研究の分野に、それぞれ20代半ばくらいまで関わっていたが、自然と導かれるように家業をともに継ぎたいという思いで水害前に帰ってきていた。

再建は一筋縄ではいかなかった。土砂や瓦礫の撤去には多くの仲間が応援に駆けつけ、被災後に予定されていた展示会のため他の織元が染め場を提供してくれて、工房再建のため必死になりながら駆け抜けた。新工房の建築設計やインテリアには、兄弟の感性やビジョンが色濃く現れ、未来を見据えた新しい久留米絣の工房のあり方が期せずして表現される場となった。

新工房は被災からちょうど2年後の2025年6月に完成した。古い工房の梁をできる限り残し、染め場の研ぎ出しの床には、被災によって割れた藍甕の破片が埋め込まれた。「ここは自分たちのルーツだから」と語る6代目の、しっかりと土地に根を張りつつも、新しい感覚を取り入れることを厭わない姿勢が現れている。

浩一さんはストリートやパンクなどの文脈を汲んだファッション史にも関心が高く、久留米絣の伝統柄の中にも、いままでとは切り取り方をすることで、違う文脈で伝え直すことができる余地があると考えている。これまで取り組んできた45RやBEAMSなどとのコラボレーションだけではなく、絣の生地を使ったオリジナルの服作りも始めている。

「衣食住がそろう町のような場を作りたい」。そんな思いを持つ浩一さんの思いに呼応するように、研究肌の弟の典信さんはスパイスカレーを追求しはじめ、イベント等で出展を重ねている。将来的には、藍染・久留米絣の工房だけではなく、ショップや飲食など、人が集えるサードプレイス的な場作りをしていきたいという。

そのためにも、災害で0からのスタートとなってしまった藍染めの復活、そして4代目の祖父や5代目の父から、久留米絣の括りや織りなどの柄作りをしっかり継承していくことが2人の目標だ。最もトラディショナルでありながら、最もイノベーティブな工房は、この2人だからこそ実現できるかもしれない。

ファッションでつなぐ、絣の再生

私たちは、久留米絣という伝統を守るだけでなく、現代の暮らしの中で再び息づくものとして再生させたいと考えています。ファッションという領域を通じて、絣の魅力を新たなかたちで届けることで、工房の再建と持続可能なものづくりを実現してきました。市場や社会と向き合いながらも、手仕事の価値や素材の魅力を大切にし、時代に応じた表現へと昇華していきます。これからも人々の生活に寄り添う形で、久留米絣の未来を織り続けていきます。