つまみ染め(丸亀絣織物)

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特徴

  • 得意なこと: 部分的に色を加える、後加工的な染色技法
  • 得意なこと: 手作業による高い表現精度
  • 得意なこと: 多色・複雑な柄表現が可能
  • 得意なこと: 久留米絣特有とも言われる希少技法
  • 課題: 非常に手間と時間がかかる
  • 課題: 高度な熟練と集中力が必要

技術の背景にあるわたしたちの取り組み

部分染色によるアクセント表現
糸の特定箇所に染料を刷り込むことで、従来の絣では難しいポイント的な色やニュアンスを加えられる。
手作業による高い表現精度
職人が一点ずつ染めることで、狙った位置に色を入れることができ、繊細なデザインが可能。
多色・複雑な色構成
複数の色を組み合わせることで、奥行きのある立体的な柄やファッション性の高い表現を実現。
絣の表現領域の拡張
括りによる防染だけでは難しい表現を補完し、久留米絣のデザインの幅を広げる技法。
産地特有の希少技術
限られた工房に受け継がれる技法であり、久留米絣ならではの個性を象徴する存在。

解説

丸亀絣織物は、生地の生産だけでなく、アパレルの企画、縫製・加工、販売までを一貫して自社で行っている。そのため、衣類やバッグなどファッション用途に適した、大きな柄や華やかな色彩を持つ布づくりを得意としている。こうした表現を支える技術のひとつが、「つまみ染め」だ。

絣は、「括り」と呼ばれる技法によって柄を生み出す。織り糸の束を別の糸で巻いて防染し、染め分けた糸を織ることで、布の上に模様が現れる。しかし、多色で染める場合には、括りと染色の工程を何度も繰り返さなければならない。手間がかかるため、色をポイントで入れるような表現には向かないという側面がある。

そこで用いられてきたのが、「つまみ染め」という技法だ。つまみ染めでは、箸の先に布を幾重にも巻きつけて作った筆を使い、地糸の束の防染された部分に染料をすり込んでいく。

シャトルに巻き取る前の200本の緯糸の束を、耳(緯糸の折り返しのポイント)を揃えて治具にかける。すると、色を入れる位置がくっきりと浮かび上がる。2本の筆で上下から挟んで少し持ち上げ、糸束を転がすように色を染み込ませることで、織り糸に新たな彩りが加わる。

こうやってできたひとつのパターンは、24cmの織り上がり寸法になる。これが緯糸200本分繰り返され、48メートル(四反)の長さの布ができ上がる(写真の治具にかけられた緯糸は上下に2つのパターンがあるため、2倍の96メートル(八反)になる)。

つまみ染めは、シンプルだが手間のかかる工程だ。かつて、久留米絣の工程が細やかに分業化され、「内職仕事」として機屋から外出しされていた時代があった。しかし、産地の生産量が年々減少し、担い手も減っていく中、引き受け先もなくなっていった。

かつての名残で、この工程に支払われる額はわずかだ。他の機屋からの依頼で、丸亀絣工房で引き受けていたこともあったが、今は自社の生産のみで取り組むのだという。ビジネスとしては成立しないが、独自の表現の手段として残し、発展させたいという思いがあるからだ。

つまみ染めで赤い花弁を表現した柄が、「つばき」である。紅白二色の花を、鮮やかな緑の葉とのコントラストとともに描き出すことで、ダイナミックでありながら和の趣を感じさせる布に仕上がっている。幾何学的でリズミカルな模様が中心の久留米かすりの中にあって、この柄はひときわ異彩を放つ存在だ。

つまみ染めを部分的に施し、ニュアンスのある柄の表現にも取り組んでいる。三角形が上下に配置される柄では、上向きの三角形は上の方に、下向きの三角形は下の方に、部分的に差し色の黄色が入る。

紺地に大きなドットがあしらわれた柄では、円の中に薄い青が不定形に差し込まれている。月に雲がかかる様が変化していくようにも見え、規則正しいパターンに動きがついて独特の表現に仕上がっている。

従来のつまみ染めは色数を増やすための方法として、色ですき間を埋めるような使われ方をしてきた。これをドローイング的に扱って「つまみ切らない」部分を残すことで、絣の柄の自由度を高める手段へと発展させたのだ。規則正しい絣のパターンをキャンバスとし、そこに手仕事の跡を残すような手段としてつまみ染めを取り入れる。従来の絣の枠を超えた新たな柄づくりに向けて、丸亀絣工房は試みを続けていく。

伝統を拡張する、つまみ染めの挑戦

私たちは、久留米絣の伝統的な技法を大切に守りながらも、その表現を現代へと広げていくことに取り組んでいます。つまみ染めは、従来の括りだけでは実現できなかった色やニュアンスを加え、絣の新たな可能性を切り拓く技法です。一点ずつ手作業で染めることで、繊細で豊かな表現を追求し、ファッションや現代の暮らしに寄り添う布づくりを目指しています。伝統に根ざしながらも、自由な発想で絣の未来を切り拓いていきます。