まだ見ぬ括りの可能性(坂田織物)

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特徴

  • 得意なこと: 自動括り機による内製化と精度向上
  • 得意なこと: 括り糸束そのものを活かした新しい表現
  • 得意なこと: 工程をデザインに転換する発想
  • 得意なこと: スケールの拡張(プロダクトから空間へ)
  • 得意なこと: 生産と実験の両立
  • 課題: 設備投資と運用負荷の大きさ
  • 課題: 素材・工程依存による制約

技術の背景にあるわたしたちの取り組み

工程を起点としたデザイン発想
括りという生産工程そのものを出発点にし、プロセスから新たな表現を生み出す。
括り素材の再定義(糸束の活用)
括った糸や糸束を単なる中間素材ではなく、最終表現として活かすアプローチ。
自動化による創造性の拡張
自動括り機の導入により、精度と効率を高めつつ、試作や新しい柄の検証を加速。
スケールの拡張(布から空間へ)
括りの構造を応用し、大型織物や空間的表現へと展開することで用途を広げる。
サステナブルな循環型ものづくり
工程で生まれる副産物や余剰素材を活用し、資源循環と新たな価値創出を両立。

解説

久留米絣産地は主として、生地産地だ。今でこそ、衣服や小物まで自社で製造販売する織元も増えてきたが、かつては問屋に織り上がった生地を買ってもらうのが織元の仕事だった。着物や衣服として魅力的な図案を考え、糸を括り染めて、技術を競い合って生地を織りあげ、切磋琢磨してきた産地なのだ。

しかし最盛期は200件あった織元も、いまでは20件を切っており、年々織元の数も生産反数も減っていっている。そんな中で、かつてのようにライバル意識を持って対抗しあうのではなく、織元同士で知恵を出し合い、協力し合いながら残っていく方向へシフトチェンジが進んでいる。

坂田織物は、まさにそんな背景の中、自社だけではなく久留米絣産地そのものの存続を意識しながら多角的な活動をしている織元。その取り組みのひとつが、括り機の自社導入だ。久留米絣の中核ともいえる機械括りの工程は昔から分業制で、現在は久留米絣広川町協同組合が括り職人を抱えて内製化しており、産地の機械括りは全て組合で行われている。

しかし久留米絣を絣たらしめる心臓部が、1箇所に集中しているのは、産地にとってはリスクでもある。災害や事故などがあれば、絣の生産そのものが止まってしまうし、納期も括りに左右されるため、大量注文に対応できるキャパシティも不足している。

そこで機械括りができる場を増やし、産地内外にも開くことを目的に、坂田織物では2020年頃から自社内での括りの機械の開発と導入に取り組んできた。組合で稼働する括り機械をベースに最新技術でアップデートした新しい括り機を、経糸・緯糸それぞれに1台ずつ投資している。

しかし機械といっても、人間のサポートを大いに必要とするものなので、実際に実用レベルまでに稼働するまでの調整はなかなか大変で、試作や実験段階では大量の括り糸のロスも出る。生地を完成形として見る絣産地では、これまでこうした余り糸に価値が見出されることはなかった。

坂田織物の3代目である坂田和生さんにとって、そんな固定概念を変えてくれたきっかけが、2023年に東京で開催された「I/KAT 久留米絣の可能性」展だったという。久留米絣産地の広域的な取り組みの一環で、デザイナーの飯田将平氏をクリエイティブディレクターに迎えたプロジェクト。テキスタイルとしての久留米絣ではなく、布になる前のプロセスに着目し、括り糸・残糸などを活用したプロダクト試作などが展示された。


method(渋谷)で行われたI/KAT展の様子

大量に余った括り糸を眺めていた坂田さんは、そうしたI/KAT展の試作品がヒントとなり、「そうだ、括り糸のまま織ってみよう」と考えた。ただ、太い糸となるため久留米絣の織機では織ることができない。そこで協力を仰いだのが、懇意にしていた京都の織元で、劇場の緞帳など「綴織」を専門とする清原織物だった。緞帳は15mもの広幅の織機で織られており、絨毯のように一本一本緯糸を入れ込み、手作業で織り叩いていく。特殊な絣の括り糸の織りも、快諾してくれたという。

できあがった「括り糸の織物」は、いろんな可能性を秘めた試作品となった。厳密な定義上は久留米絣の生地ではないかもしれないが、これ以上久留米絣の本質が凝縮された生地もまた、ある意味では存在しないといえる。

「絣を身近にする」というミッションを掲げる坂田織物。あえて「久留米絣」ではなく「絣」とした。産地内で足の引っ張り合いをしている場合ではないどころか、もはや世界中で希少となっている「絣」を他の絣産地とも連携して伝え広め、残していかなければいけない。絣のアイデンティティでもある「括り」の存続、そして括り糸そのものを利用した新たなプロダクト開発は、そんな坂田さんの危機感の現れでもあるのだ。

括りからひらく、絣の新しい地平

私たちは、絣の核となる「括り」を単なる工程としてではなく、創造の出発点として捉えています。括りによって生まれる糸や構造、プロセスそのものに目を向けることで、これまで見過ごされてきた価値を掘り起こし、新たな表現へとつなげています。自動化や素材の再解釈も取り入れながら、伝統に根ざしつつもその枠を超える挑戦を続け、絣の可能性をさらに広げていきます。