経緯絣とやたら織り(野村織物)
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特徴
- 得意なこと: 経緯絣による高精度で複雑な柄表現
- 得意なこと: 柄の「ズレ」を含んだ独特の表情
- 得意なこと: やたら織りによる偶発性と豊かな表情
- 得意なこと: 多様な色・柄展開への対応力
- 課題: 工程の難易度が高く手間がかかる
- 課題: 再現性・均一性のコントロールが難しい
技術の背景にあるわたしたちの取り組み
- 経緯絣による高度な柄構成
- 経糸・緯糸の双方で柄を合わせることで、精緻で奥行きのある複雑な模様を生み出す。
- ズレを活かした柔らかな表情
- 完全に一致しない微細なズレやかすれが、有機的な風合いを生む。
- やたら織りによる偶発的なデザイン
- 緯糸をランダムに織り込むことで、規則性と不規則性が混ざり合った独特の表情をつくり出す。
- 素材や余剰を活かす創造性
- 余った糸などを活用しながら、新しい柄や表情を生み出す柔軟な発想。
- 精密さと自由さの共存
- 経緯絣の厳密な構造と、やたら織りの自由な表現が共存し、多様なデザイン展開を可能にする。
解説
久留米絣は、織る前に糸を括って染めて、解いた糸を使って織るイカット/ikatだ。織物だから、当然に経糸と緯糸があり、経糸もしくは緯糸だけが括られている生地が英語でいう”シングル・イカット / Single Ikat”。逆に経糸と緯糸の両方を括り、柄合わせをしながら織る生地(経緯絣)は”ダブル・イカット/ Double Ikat”と呼ばれ、技術的にも難易度がぐっと高くなる。

手織りの織機であれば、緯糸一本一本を経糸に通す際、目視で柄合わせを確認しながら丁寧に織っていくことができるが、これがモーターで動く動力織機となるとそうはいかない。動力織機での柄合わせは、「ヌキ巻き(ヌキ=緯糸)」と呼ばれる緯糸をシャトルに巻きつける織り準備の緻密さと、動力織機を動かす織り手の厳しい目が不可欠なのだ。

野村織物は、この高難度のダブル・イカットを動力織機で精度高く織ることができると定評のある織元の一つだ。2代目の「織元たるもの、生地を作ってなんぼ」という方針を踏襲し、とにかく品質のよい生地作りを続けてきた。100年近く前の豊田式の動力織機についているゲジゲジのような装置は、経糸のテンションを調整することで柄合わせをするもの。温度や湿度などで、綿糸は伸び縮みするため、毎日状態が変わるのだ。

しかし、厳しい柄合わせを維持するためには、犠牲もつきもの。ヌキ巻きでできる限り柄合わせをするものの、糸の伸縮や手作業の性質上、どうしても大きくズレが出てしまうことがある。こうした「NGシャトル」を省いていく中で、だんだんと使えないけどもったいなくて捨てられない糸が溜まっていったという。
こうして溜まった糸をなんとか活かせないか?という発想から生まれたのが、「やたら織り」という生地だ。NGになった糸を再度ヌキ巻きで柄合わせをせずに巻き直すことで、当初設計した柄ではない新しいランダムな柄に生まれ変わる。無地の糸を中心に構成された縞模様の経糸に、緯糸のシャトルを通していくと、無作為にずれる絣の柄が浮かび上がる。

ベテランの職人の高齢化により、コロナ期頃から徐々に世代交代と若年化が進む野村織物の工房。4代にわたって続く絣の技術をしっかり踏襲しつつ、若い世代の柔軟な発想と遊び心を取り入れながら、進化を続けている。
精緻さと偶発性が織りなす、絣の新たな境地
私たちは、経緯絣による緻密な柄づくりという伝統技術を大切に守りながら、その中に生まれるわずかなズレや揺らぎもまた、絣ならではの魅力として捉えています。さらに、やたら織りのような偶発性を取り入れることで、規則性と自由さが共存する新しい表現に挑戦しています。精密さだけでなく、手仕事がもたらす不確かさや豊かさを活かしながら、久留米絣の可能性を広げていきます。